立山黒部アルペンルート

立山を開いた有頼少年

むかしむかし、この立山に佐伯有頼(さえきありより)という少年がいました。
ある日、有頼は父が大切にしている白鷹をこっそり持ち出し
鷹狩りへでかけました。
ところが、白鷹は急に有頼の手をはなれ、
空高く飛び立ってしまいました。
有頼は白鷹を必死で追いかけました。
こずえにとまったところを捕まえようとしましたが、
そこに突然一匹の熊があらわれ、
おどろいた白鷹はふたたび逃げてしまいました。
「憎き熊め!よくも父の白鷹を逃がしたな!」
怒った有頼は、熊めがけて矢を放ちました。
矢はみごと胸に命中。
熊は傷口から血を流しながら山の奥へと走り去っていきました。

有頼は地面に点々と落ちた血を目印に何日も熊を追いかけ
立山の奥深くへと進んでいきました。
ついに、熊が立山頂上近くの
岩穴に逃げ込んだことをつきとめました。
「今度こそは…」
有頼は、岩穴に踏み込みました。
しかし、中にいたのは熊ではありませんでした。

そこには、金色に輝く阿弥陀如来が立っていました。
よく見ると、その胸には有頼が射た矢がささっています。
「阿弥陀様に向かって弓を引いたのか…!」
呆然とする有頼に、阿弥陀様が言いました。
「白鷹も熊も、すべてはお前にわたしの思いを託すため。
この尊い山に多くの人が信仰をささげられるよう、
お前は僧になってこの山を開きなさい」

お告げを受けた有頼は感激し、
名を慈興と改めて立山開山にその一生をささげました。